はじめに
犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)とは、左右の腎臓付近にある副腎皮質から分泌されるホルモン(糖質コルチコイド=コルチゾール、鉱質コルチコイド=アルドステロンなど)が著しく少なくなることで発症する内分泌疾患です。
アルドステロンとコルチゾールの両方が不足するアジソン病を定型型、コルチゾールのみが不足するアジソン病を非定型型を呼び、非定型型のアジソン病は発見が困難です。
非定型型のアジソン病はアジソン病の1~3割程度と言われていますが、当院のアジソン病と診断されたワンちゃんでは実に7割くらいが非定型型です。
これは定型型のアジソン病は症状が特異的(尿量の増加など)で通常の血液検査でも電解質異常(Naの低下とKの上昇)として簡単に診断が可能なのに対して、非定型型のアジソン病は症状が非特異的で特殊なホルモン検査(ACTH刺激試験)を行わないと診断が出来ない為、非定型型のアジソン病の多くが見逃されている為と考えられます。
この病気は、ホルモン分泌が正常レベルから低下しても、症状が出るまでに時間がかかることがあり、見逃されやすい疾患でもありますが、病気が進行すると「アジソンクリーゼ(急性副腎不全)」という強い症状を起こし、生命に関わる状態となることもあるので注意が必要です。
アジソン病の原因
原因は大きく分けて3つに分けられます。
1.特発性(免疫介在性):副腎そのものが自己免疫反応などにより萎縮・破壊されることが最も多い原因と考えられています。
2.感染症・出血・腫瘍などによる副腎破壊:副腎への出血や腫瘍、あるいは他の病気を契機とした二次的な機能低下も原因として報告されています。
3.医原性:過去にホルモン(ステロイド)治療を長期に行ったことで、副腎の機能が落ちて発症することがあります。
この他、下垂体という脳の付属臓器の機能不全により、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)という物質が分泌されなくなることによって起こる、2次的なアジソン病も存在します。この病気は下垂体萎縮症という病気で、子犬や子猫の時から罹患していることも多く、食欲のない子犬や子猫の検査をすると、アジソン病だったということも多く、当院でもたくさんの患者様が早期に見つかり、治療によって元気になっています。
アジソン病の症状
犬のアジソン病では、特徴的で「この病気だけに見られる」症状というよりは、他の疾患でも見られるような症状が多いため、飼い主さまが「なんとなくおかしい」と感じたら注意が必要です。
以下、典型的な症状を挙げます:
- 元気がない、活力低下、動きたがらない
- 食欲低下、体重減少
- 嘔吐・下痢・血便などの消化器症状を繰り返す
- 多飲・多尿、または脱水傾向
- 筋肉量の低下、ぐったりする、震える
- 血液検査での電解質異常(低ナトリウム・高カリウム)や低血糖、低血圧など
- ストレスや手術など、体に負荷がかかった時に急に体調が悪化する傾向あり(=アジソンクリーゼのリスク)
アジソン病はストレスに対するホルモン量が不足しているため、ストレス(精神的なストレスだけでなく、寒暖差、肉体的な負荷、環境の変化など)がかかると症状が出やすくなります。
たとえば、普段は元気だったのに「トリミング後に急にぐったりしている」「旅行や環境変化のあと体調を崩すことがある」「ちょっとしたことですぐに体調を崩してしまう」といった状況は、アジソン病を疑うポイントとなります。
アジソン病の診断
当院では、以下のようなステップでアジソン病の診断を進めます:
- 臨床症状の確認・問診:元気消失・消化器症状・多飲多尿などの有無、ストレス耐性が弱くなっていないかなどの確認。
- 一般血液検査・電解質検査:ナトリウム・カリウム・クロール、血糖値、尿素窒素(BUN)・クレアチニン(CRE)などの腎指標、肝指標をチェック。
 定型型のアジソン病では、電解質の異常(低Na/高K)や低血糖が典型的ですが、非定形型のアジソン病では一般的な血液検査では全く異常が無いことも多く、これが早期発見を難しくしている要因です。
- 腹部超音波検査:副腎の大きさ・形態を確認。多くの場合、副腎が萎縮している所見が得られます。
- ホルモン検査・確定診断:代表的には「ACTH刺激試験」。ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を注射し、その前後のコルチゾール値を測定します。反応が乏しければアジソン病と診断されます。
- 除外診断:症状・検査所見が似ている腸疾患、腎疾患、肝疾患、他の内分泌疾患(例えばクッシング症候群)との鑑別を行います。
アジソン病の治療
アジソン病は、ホルモンが不足しているため「補充」が基本となりますが、以下のポイントがあります:
- 急性期(アジソンクリーゼ):ぐったり・低血圧・低血糖・脱水など重篤な状態の場合は、入院管理・点滴・ホルモン注射(コルチゾール・アルドステロン補充)を行います。命に関わるため早期対応が重要です。当院ではICU(集中治療室)設備もありますので必要に応じて使用します。
- 維持治療:ホルモン補充薬(コルチゾール=プレドニゾロンなど、鉱質コルチコイド=フルドロコルチゾン、またはDOCP注射)を使用し、定期的に血液検査・電解質・体重・症状のモニタリングを行います。 
- 生涯管理が必要:一度診断が確定すると、完治ではなく「コントロール可能」な慢性疾患として継続的な管理が必要です。ですが、適切に治療を継続すれば健常な犬とほぼ同じような暮らしが可能です。
おわりに
愛犬が「いつもとちょっと違う」と感じた時、たとえば「元気がない」「食欲が落ちている」「繰り返す嘔吐・下痢」「体重が減ってきた」「突然ぐったりした」などのサインは、アジソン病の可能性を含んでいます。特にストレスがかかった後に体調が急変した場合は、アジソン病のクリーゼ状態が疑われますので、早急に受診していただくことが必要です。
特に非定型型のアジソン病は一般的な血液検査では発見することが困難で、気が付かずに長期間(数年単位)罹患していることが多い病気です。非定型型のアジソン病はやがて定型型のアジソン病へと進行し、重度の電解質異常と脱水によるアジソンクリーゼ状態になってから初めて発見されることも多く、発見時にはすでに手遅れになっていることが多いです。症状があいまいなため、気が付いてあげることが難しい病気ですが、当院では多くの患者さまのアジソン病を早期に発見・治療して健康に過ごして頂いています。
※当院はご予約優先制になります。
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【クラーク動物病院】
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