マダニによる感染症と予防について

前回、フィラリア症〜治療と予防について〜のページではフィラリア症について詳しく解説しました。

今回はマダニによる感染症と予防について解説します。

人がマダニにより感染する主な病気

  • SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
    近年特に問題となっているマダニが媒介するウイルス感染症で、高熱や消化器症状、血小板減少を起こし、人の死亡例もあります。犬、猫にも感染の報告があります。詳しくは後述します。
  • Q熱(コクシエラ症)
    発熱、倦怠感、肺炎症状など。
  • ライム病(ボレリア症)
    皮膚に特徴的な環状の発疹や発熱、頭痛、関節痛などを引き起こします。慢性化すると神経や心臓に影響を及ぼすこともあります。
  • 日本紅斑熱
    発熱や発疹、リンパ節腫脹などを起こします。

犬がマダニにより感染する主な病気

  • 犬バベシア症
    赤血球を破壊し、貧血や発熱、元気消失などを引き起こします。重症化すると命に関わることもあります。
  • 犬バルトネラ症
    発熱、リンパ節の腫れ、食欲不振などを伴うことがあります。
  • 犬のライム病
    関節炎や神経症状、皮膚の症状が現れることがあります。

猫がマダニにより感染する主な病気

  • 猫のライム病
    犬ほど発症例は多くありませんが、感染すると関節炎や発熱がみられることがあります。
  • 猫ヘモバルトネラ感染症
    貧血・発熱・元気消失などの症状がみられる病気です。マダニによる媒介や感染血液での伝播が考えられています。

このようにマダニによって人・犬・猫に非常に多くの感染症が引き起こされる可能性があります。

その中でも近年、特に問題となっているのはSFTS(重症熱性血小板減少症候群)です。

SFTSは致死率の高いウイルス感染症

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、マダニが媒介するウイルス感染症で、発熱や下痢・嘔吐などの症状が現れ、重症化すると出血や多臓器不全を引き起こします。致死率は10〜30%と非常に高く、人や動物にとって大変危険な病気です。

このウイルスは中国で最初に確認され、日本では2013年に山口県で初めて報告されました。現在は西日本を中心に発生が続いており、自然界のシカやイノシシなどの野生動物の間でもウイルスが広がっています。

2023年の報告では、北海道でもマダニからSFTEウイルスは検出されているので、北海道でも注意は必要です。

SFTSはマダニだけでなく動物からも感染します

SFTSの感染経路はマダニだけではありません。感染した動物の唾液や血液との接触でも人へ感染します。特に獣医師や飼い主が、発症した猫や犬を介護した際に感染するリスクがあります。

2024年には三重県の獣医師が、SFTSに感染した猫の診察を行った後に自身も感染し、亡くなったという事例が報告されました。これは2017年に続き、獣医師がSFTSで命を落とした2例目となります。

SFTSに犬や猫が感染したら

猫がSFTSに感染すると、発熱・嘔吐・極端な元気消失などの症状が出ます。重症化すると黄疸や出血が見られることもあり、感染猫の6〜7割が死亡するとされています。こうした症状があれば速やかに動物病院に連絡し、体液には触れないよう注意してください。

犬も感染することがありますが、猫ほど症状は出にくく、多くは無症状です。ただし、2022年には感染した犬から猫への感染例も報告されており、複数のペットを飼っている場合は犬にも予防が必要です。

ペットがマダニに噛まれたら

マダニの多くは、人や動物に取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、数日から、長いものは10日間以上吸血しますが、咬まれたことに気がつかない場合も多いと言われています。

吸血中のマダニが体に付いているのを見つけた場合、無理に引き抜こうとしないでください。無理に引き抜こうとすると、マダニの一部が皮膚内に残り、化膿したり、マダニの体液を逆流させてしまったりする恐れがあるので、医療機関でマダニの除去・洗浄等の処置をしてもらってください。

ペットがマダニに噛まれてしまった場合、14日間は経過観察が必要になります。
また、ペットのマダニ予防をしてない場合、いつから噛まれていたかが不明なので、受診時に熱が高く無いか、血小板が減って無いかなどのチェックをさせていただくことがあります。

ペットのマダニ予防が大切です

感染を防ぐには、犬や猫へのマダニ予防が何より大切です。春から秋にかけてマダニの活動が活発になる時期は定期的に予防を行いましょう。散歩の後は、被毛をかき分けてマダニがついていないか確認し、しこりや違和感があれば自分で取らず、必ず動物病院に相談してください。

マダニ予防薬のタイプと特徴

1. スポットオンタイプ(皮膚に垂らすタイプ)

  • 特徴
    首や肩甲骨あたりの皮膚に数滴垂らす液体タイプの薬剤で、皮膚から成分が吸収されて体全体に行き渡ります。通常は月に1回使用します。
  • 長所:
    • 経口タイプと違い、薬を飲んでくれない・吐き戻すという心配がなく、投与が簡単です。
  • 短所:
    • 投与後は数時間、薬剤がついた部分を触らないようにする必要があります。
    • 稀にワンちゃん・猫ちゃんが投与した場所を気にしてしまうことがあります。

2. 経口タイプ(ノミ・マダニのみ予防)

  • 特徴
    錠剤やチュアブルのお薬で、口から飲ませることで体内に成分が吸収され、ノミ・マダニが噛むことで効果を発揮します。月に1回または3か月に1回投与のものが多く、薬によって効果期間が異なります。
  • 長所:
    • 薬を飲むだけで済むため、皮膚に薬を付けたくない犬や飼い主に適しています。
    • 投与後にすぐに水遊びやシャンプーをすることが可能です。
  • 短所:
    • 薬の成分が体内に入るため、ごく稀にアレルギー反応を起こすことがあります。
    • ごく稀に薬を食べてくれなかったり吐き戻してしまうことがあります。

3. 経口オールインワンタイプ

  • 特徴
    ノミ・マダニに加え、フィラリアやお腹の虫下しなど、複数の寄生虫に対応した薬です。月に1回の投与で済むものが多く便利です。
  • 長所:
    • 複数の寄生虫に一度に対応できるため、手間が省けます。
    • 食べやすいように美味しい味付けがしてあるため投与が簡単です。
  • 短所:
    • 薬の成分が体内に入るため、ごく稀にアレルギー反応を起こすことがあります。
    • ごく稀に薬を食べてくれなかったり吐き戻してしまうことがあります。

当院ではフィラリア症とノミ・マダニの両方の感染の危険がある時期(6月〜11月くらい)はオールインワンタイプをオススメしています。オールインワンタイプはノミやマダニ、フィラリアに加え、消化管内寄生虫や疥癬、ニキビダニなどの皮膚病も予防することが出来ます。

オールインワンタイプのお薬を処方する場合、フィラリア症の予防に関しては投薬時に体重ギリギリのお薬(例えば、体重5kgの子までのお薬を体重4.9kgの子に処方する)でも問題ないのですが、ノミ・マダニ予防に関しては1ヶ月間予防効果を持続させないとならないことから、処方時に体重ギリギリだった場合、1つ大きめのお薬を処方させていただくことがあります。患者様の状況に合わせて相談しながらご提案いたしますのでお気軽にご相談ください。

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  6. フィラリア症〜治療と予防について〜

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